2008年1月1日火曜日

半世紀の夢、南極に 札幌・阿部さん現地で観測活動

「人間あきらめたら絶対だめだ」。第四十九次観測隊員の写真家兼ビデオジャーナリストの阿部幹雄さん(54)=札幌市=は、今回最年長の五十四歳で南極に立った。一九八一年の中国・ミニヤコンカ(七、五五六メートル)登山隊での遭難事故など苦難を乗り越え、子供時代の夢であった南極で活動を始め、三十一日に北海道新聞に元気な声で喜びを伝えた。(東京社会部 岩本茂之)
 阿部さんは十一月下旬南極に到着。昭和基地西方にあるセール・ロンダーネ山地の地質調査隊七人の危機管理者兼記録係として活動する。過去に人や雪上車の転落事故が起きた、クレバスが多い地帯。ブリザードが起きると風速三〇メートル、零下三○度の猛吹雪になり、今回は雪上車という避難手段がないテント生活。「犬ぞりがスノーモービルに変わったぐらいで、第一次観測隊に匹敵する過酷さと言われています」
 愛媛県松山市出身。子供のころ、松山城がある高台から雪の中国山地を見た。五七年、日本初の南極観測隊の現地からのニュースに胸を躍らせ「ヒマラヤや南極の極地体験をしたい」と思い、北大に進み、迷わず山スキー部に入った。
 八一年、ミニヤコンカ登山隊に加わったが、頂上を目前に仲間八人が滑落し、自身もクレバスに胸まで落ちた。背中のザックが引っ掛かり「足は中ぶらりん。落ちると二千数百メートル。自分では絶対脱出できず死の恐怖を味わった」。駆け付けた仲間の命懸けの救出で奇跡的に生還した。
 今回観測隊に応募した際「年だし南極はもうだめだと思っていた。でも人間あきらめたら絶対いけない」と南極行きを信じ続けた。
 夢の南極で大みそかを迎え、そして新しい年。「人生観が変わった」としみじみ語った。「岩と氷だけの裸の地球を見て、自分は宇宙で生きていると感じた。自分が知らない世界がある。夢を持ち続けて探求したい」
 隊の調査目的は五億-六億年前の石を採取し、南半球の大陸が一つだった時代の歴史を解明すること。「研究者が強風と寒さの中、はいつくばって石を見て四十キロものサンプルを担ぎ山から下りる。夢のない時代、億年単位で地球と対話する人の姿を撮り、感動を与えたい」。二月中旬に帰国、映像公開する予定だ。

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